シート工法とは?ペロブスカイト太陽電池の新しい施工法を解説—生まれた背景と“軽量・着脱・低コスト”の強み
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シート工法とは?ペロブスカイト太陽電池の新しい施工法を解説—生まれた背景と“軽量・着脱・低コスト”の強み
『屋根が重さに耐えられないから太陽光は無理』——その常識をひっくり返す第三の選択肢が“シート工法”です。
日揮のプラントエンジニアが発案した施工方法の背景と、現場での利点をお届けします。
シート工法が生まれた背景
フィルム型太陽電池の従来施工法の課題
従来のフィルム型太陽電池は「建物直貼り」や「フレーム架台」による固定が主流でした。特に主流の直貼りは、建物側の定期的なメンテナンスを阻害してしまうという課題がありました。
一方で、フレーム架台を用いると既存建物の耐荷重制約や防水性能の担保などで、設計・施工の自由度が限られがちでした。
特にBAPV(Building-Attached Photovoltaics:建物への後付け)では、建物に“追加設備”としてPVを載せるため、建物側の制約が大きく影響します。BIPV(Building-Integrated Photovoltaics:建材一体型)と異なり、後付けの部材・固定が別途必要になるため、軽量なフィルム型であっても設計・施工の丁寧な最適化が欠かせません。
スタートアップ投資からの展示会でのセレンディピティ
日揮では2022年5月にペロブスカイト太陽電池製造のスタートアップへ出資し、いち早く施工方法について検討を進めてきました。
従来工法では課題が残り「このままではペロブスカイト太陽電池(PSC)は普及しない」と思い悩んでいた折、屋根に膜構造で後付けされている“遮熱シート”と出会い、「ペラペラの太陽電池であれば架台をシート状にしても膜構造として安全性を担保でき、軽量かつ着脱可能な新たな施工法が出来るのでは」と着想。
プラントでは膜構造のタンクなどを扱ったり、様々な建築物の耐風設計や解析を行ったりと、多様な技術を統合するプラントエンジニアリング会社だからこそ、到達できた発想だったのかもしれません。
参考文献
- 1. JPEA「建物設置型太陽光発電システムの設計・施工ガイドライン(改訂5版)」 (2024年)
シート工法の仕組み
シート状架台と固定金具
シート工法の基本構造は至ってシンプルです。屋根とフィルム型太陽電池の間に一枚のシートを入れて、テントのように張っています。これがシート工法の別称「張る太陽電池」や「貼らない太陽電池」の由来です。
特に重要なのは、太陽電池に局所荷重がかからないように、シートの両辺を均一に挟み込む専用の固定金具(グリッパー)です。このグリッパーは、ハゼ式折板屋根のように適切な突起部がある場合は、ボルト等の貫通工事をせずとも固定することが可能です。
シート工法の施工
現場では、予め連続したシート状の太陽電池モジュールにすることで一気に敷設でき、かつ配線作業を削減することができます。
取り外し作業はグリッパーを拡げるだけのため、太陽電池だけでなくシートごと簡単に交換や撤去が可能です。建物の定期的や突発的なメンテナンスにも対応できるので、改修サイクルが短い施設や、段階的な増設・移設が想定される建物でも、運転停止時間を抑えた再設置を実現します。
従来とは異なる施工法のため特別な技術習得が必要ですが、品質管理や維持管理は従来型パネル向けのJPEA/JEMAの設計・施工・O&Mガイドラインに沿って検査記録を残す運用と大きく変わりません。
強み(軽量・着脱容易・短工期・遮熱効果のねらい)
軽量性:建物側の制約をクリアする
シート工法の単位面積あたりの重量は約2kg/m2であり、従来のガラス型パネルの十数kg/m2と比べると桁違いに軽いです(ハゼ式折板屋根の場合)。
PVを設置する設計思想になっていない軽量金属屋根や築古施設、将来の法改正リスクに備えて耐荷重を残しておきたいケースなど、設置可能性を大幅に拡げます。また、軽量性は搬送・荷揚げの省力化にも直結し、様々な面でコストダウンの恩恵があります。
着脱容易性:部分補修から将来移設まで
専用の簡易金具で“シートごと張り直し”ができるため、太陽電池の部分補修や建物側のメンテナンスが容易になります。
改修工事や設備更新のたびに大掛かりな撤去を必要としない点は、O&Mの停止時間の短縮とランニングコスト低減や、建物の大規模修繕を待って導入する必要がなくなるなどのメリットが生まれます。
また同様に、軽量性も活かして将来の移設も容易になることで、建物の老朽化による撤去や建て替えの懸念による導入ハードルを軽減することができます。
短工期:荷揚げ・架台組立のボトルネックを緩和
非ガラス・非フレームゆえ、搬送と荷揚げの負担が小さくなります。シート状架台で配線・排水・固定を一体設計できるため、タクト設計に基づいた面積×日産能率の計画を立てやすくなります。結果として、工場など操業停止時間を厳しく制限する現場でも実装しやすくなります。
その他:遮熱効果や耐久性・発電量の向上も
シート工法は屋根との間に空間を形成することで、他にも様々な効果があります。
- 1. シートが直射日光を遮り裏の空間が断熱するため、屋根の温度上昇と冷房負荷を低減できる(遮熱・省エネ効果)
- 2. 太陽電池の劣化要因となる温度が建物直貼りと比べて上がりにくい(耐久性・発電量向上)
- 3. ケーブルを太陽電池の裏面から出せるため、発電面積を削らない(発電量向上)
- 4. ケーブルをシートの影に隠せるため、紫外線等による樹脂部品の劣化を軽減できる(耐久性向上)
- 5. ケーブルを屋根との間に仕舞えるため意匠性に優れる(美観向上)
適地と適用例(工場・倉庫・カーポート・壁面)
工場・倉庫(折板屋根 太陽光)
折板屋根のスパン・板厚・母屋条件に応じて固定ピッチと端部処理を設計。軽量ゆえ耐荷重マージンが小さい既存屋根でも採用余地が広がります。操業を止めにくい施設で短工期の価値は大。
カーポート・仮設・改修サイクルの早い場所
小荷重・短工期で設営・撤去が容易。改修サイクルの早い設備や仮設用途で、着脱可能性が運用コストに効きます。
よくある質問(撤去・再利用)
Q1. 撤去や更新は簡単?
簡易取り付け金具の併用により、シートごとの張り直しやユニット単位の交換が可能です。撤去時は、電気設備としての安全処置、回収、原状回復の順で実施し、施工記録と合わせて保管します。
Q2. 再利用・リサイクルの見通しはどうか
軽量・薄型であるため搬出・選別の負担が小さく、BAPVの更新サイクルにも適合します。技術面はIEA PVPSのBIPV資料、制度面は窓・壁等一体型の補助制度などの公募情報を参照すると実装の具体像を描きやすくなります。
まとめ
シート工法は、既存の建物にやさしい太陽電池の施工方法として、現場の悩みに丁寧に寄り添います。軽さを活かして屋根への負担を抑え、非貫通を基本にしながら必要な固定をきちんと設計することで、安全性と取り付けの柔軟さを両立します。
まずは建物の条件と実現したいことをお聞かせください。シート工法の強みを活かしながら、無理のない工程と分かりやすい見積りで、安心して始められる計画づくりをお手伝いします。
この記事を書いた人
未来戦略室 プロジェクトマネージャー 永石 暁さん
2010年新卒入社。国内外プロジェクトで機械エンジニアを経験後、現部署にて新規事業開発およびスタートアップ投資でエネルギー分野を担当し、「どこでも発電所」事業のリーダーを務める。早期からペロブスカイト太陽電池製造のスタートアップと連携し、プラントエンジニアの知見を活かして”シート工法”を発明。設置施工の立場から薄膜太陽電池業界に参入し、登壇・寄稿実績多数。趣味は温泉とラーメン屋巡り。